「追分」とは道が分かれる場所のことです。この宿場の名前そのものが、ここの意味を表しています。

追分宿は中山道第20宿。中山道と北国街道(善光寺道)の分岐点に位置する宿場です。旅籠35軒は浅間三宿(軽井沢・沓掛・追分)の中で最大。二つの街道の合流点として常に旅人で賑わい、追分節が生まれ、近代には堀辰雄や立原道造ら文学者たちがこの地に滞在しました。
現在の追分宿は、中山道の宿場の中でも保存状態が飛び抜けて良い場所です。観光地化が進みすぎず、しかし手入れが行き届いている。そのバランスが絶妙で、「中山道の宿場を歩く」という体験の質が最も高い場所の一つだと感じています。
追分宿の基本データ
| 項目 | 内容 |
|---|---|
| 宿場番号 | 中山道第20宿 |
| 日本橋からの距離 | 約146.5km |
| 所在地 | 長野県北佐久郡軽井沢町追分 |
| 本陣 | 1軒 |
| 脇本陣 | 2軒 |
| 旅籠 | 35軒 |
| 最寄り駅 | しなの鉄道 信濃追分駅(徒歩約15分) |
| 最終確認日 | 2026年7月 |
「分去れ」— 二つの道が分かれる場所
追分宿の西端に「分去れ(わかされ)」と呼ばれる場所があります。ここで中山道は直進して小田井宿方面へ、北国街道は北へ分岐して小諸・上田・善光寺方面へ向かいます。
この分岐点には「さらしなは右 みよしのは左」と刻まれた道標が立っています。右(北国街道)へ行けば更科(さらしな=善光寺方面)、左(中山道)へ行けば美濃路を経て京(吉野)へ。旅人はここで行き先を選び、別れを告げた場所です。
「追分」の地名は全国にありますが、中山道の追分宿は最も有名なものの一つです。二つの主要街道が分岐する交通の要衝として、常に旅人が行き交い、旅籠35軒という大宿場に発展しました。
追分節の故郷
追分宿は「追分節」の発祥地です。追分節は江戸時代に馬子(馬方)たちが歌い始めた民謡で、後に全国に広まりました。


「追分馬子唄」とも呼ばれるこの唄は、旅人の別れと出会いを歌った哀調のある唄です。街道の分岐点で旅人を見送る馬子の心情が歌に込められています。現在も追分節保存会が活動しており、毎年公演が行われています。
宿場を歩いているとき、この通りで馬子が唄を歌い、旅人が足を止めて聴いていた情景を想像すると、宿場の空気が一層深く感じられます。
文学者たちが愛した宿場
追分宿は近代になって文学者たちの滞在地として知られるようになりました。
堀辰雄と追分
堀辰雄は追分に別荘を持ち、この地で多くの作品を執筆しました。『風立ちぬ』『美しい村』など、軽井沢・追分を舞台にした作品が残っています。追分宿内に「堀辰雄文学記念館」があり、書斎や原稿を見学できます(入館料400円)。
立原道造
詩人・立原道造も追分に滞在した一人です。堀辰雄との交流を通じてこの地を愛し、追分の風景を詩に詠みました。24歳で夭逝した立原の感性は、追分の静けさと高原の光に強く影響されています。
追分コロニー
戦前から昭和にかけて、追分には多くの文学者・芸術家が集まりました。「追分コロニー」と呼ばれるこの文化圏は、軽井沢の華やかさとは異なる「静かな創作の場」としての追分の魅力を象徴しています。
宿場の見どころ
宿場の町並み
追分宿は約600mの直線的な町並みで、保存状態が非常に良いです。古い旅籠の建物がそのまま残り、格子戸や二階の手すりが往時の雰囲気を伝えます。通り全体に統一感があり、中山道を歩いてきて「これが宿場だ」と最も強く実感できる場所です。
泉洞寺
宿場内にある泉洞寺は、境内が美しく整えられた寺院です。追分節の碑があり、秋の紅葉が見事です。
堀辰雄文学記念館
堀辰雄の別荘を移築・復元した記念館。書斎や庭が公開されており、文学に興味がある方は30〜45分かけてじっくり見学できます。
補給とトイレ
補給
追分宿内にカフェ・軽食店がいくつかあります。宿場の雰囲気に合わせた落ち着いた店が多く、休憩に最適です。コンビニは宿場から少し離れた国道18号沿いにあります(徒歩10分程度)。
次の小田井宿には補給が乏しいため、追分で飲料・軽食を確保しておくと安心です。
トイレ
追分宿内に公衆トイレがあります。堀辰雄文学記念館にもトイレあり。困ることはありません。
宿泊情報
追分宿は軽井沢町内のため、宿泊の選択肢は豊富です。
追分宿周辺:
・旅籠を改装した宿やペンションあり
・追分の静かな雰囲気を味わうなら宿場内の宿泊がおすすめ
軽井沢方面:
・軽井沢駅周辺にホテル多数
・中軽井沢(沓掛宿)にもペンションあり
・追分から軽井沢駅まで車で約15分、バスあり
アクセスとエスケープルート
最寄り駅:
・しなの鉄道 信濃追分駅(宿場から徒歩約15分)
・軽井沢駅まで2駅、小諸駅まで3駅
バス:
・軽井沢駅方面へのバスあり(追分バス停)
・本数は比較的多い(軽井沢町内路線)
区切り歩きでの利用:
・軽井沢〜沓掛〜追分を1日で歩き(約6km)、追分で終了
・翌日に追分〜小田井〜岩村田〜塩名田と進むパターン
・信濃追分駅が便利な起終点

管理人のひとこと
追分宿に入った瞬間、「ここは他の宿場と違う」と感じました。通り全体に統一感があって、古い建物が連続して残っている。奈良井宿や妻籠宿ほど観光客がいないのに、町並みの質はそれらに匹敵する。むしろ人が少ない分、空気が落ち着いています。
分去れの道標の前に立ったとき、ここで旅人が「右か左か」を決めた瞬間を想像しました。善光寺に向かう人、京都に向かう人。同じ宿場に泊まっていた旅人が、翌朝この場所で別の方角に歩き出す。その光景が浮かぶと、「追分」という名前の重みがわかります。
堀辰雄記念館にも寄りました。書斎の窓から見える緑が美しくて、この環境で書く喜びを想像しました。追分は「歩く人」にも「留まる人」にも、それぞれの価値を提供してきた場所です。
街道が分かれ、人が集まった宿場
追分宿は中山道と北国街道の分岐点に位置する旅籠35軒の大宿場です。分去れの道標、追分節の故郷、文学者たちの滞在地。小さな宿場に、歴史と文化が何層にも重なっています。
保存状態が良く、人が少なく、歩いていて心地よい。中山道の宿場町の中で、最も「ゆっくり歩いてほしい」宿場です。30分で通過するのではなく、1時間以上かけて味わってください。
関連リンク
・前の宿場:沓掛宿

・次の宿場:小田井宿

・前の区間:沓掛宿〜追分宿

・次の区間:追分宿〜小田井宿



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